新しい作品として生まれ変わった『ウェスト・サイドス・トーリー』

新しい作品として生まれ変わった『ウェスト・サイドス・トーリー』日々の出来事
新しい作品として生まれ変わった『ウェスト・サイドス・トーリー』

2月11日(金)より日本で公開された『ウェスト・サイド・ストーリー』を観に行ってきました。

もちろん感染予防策をしっかり行なった上で。

解説ブログではないのですが、ネタバレ事項も含むため、まだ映画を観ていない方は注意してください。

『ウェストサイド物語』をリメイクした真意とは

1961年に公開された『ウェストサイド物語』は、アカデミー賞で11部門にノミネートされ、そのうち10部門受賞しました。

この中には作品賞や監督賞とともに、シャーク団のリーダーベルナルド役を演じたジョージ・チャキリスとその恋人であるアニタ役のリタ・モレノがそれぞれ助演男優賞助演女優賞を受賞しました。

この大傑作である『ウェストサイド物語』を、御年75歳スティーヴン・スピルバーグ監督がリメイク版として手がけたのが今作の『ウェスト・サイド・ストーリー』です。

監督がミュージカル映画を手掛けたのは今作が初めてだそうです。

そもそも「すでに名作として出来上がった作品をリメイクしたところで旧作を超えることなんてできないのだから負け戦になる」と言う声も挙がっていたようですが、それでも監督は映画制作に着手したようです。

監督の真意はいったい何だったのでしょうか。

物語のあらすじと時代背景

物語は、1950年代後半のニューヨーク、マンハッタン島のアッパー・サイド・ウェスト地区を舞台としています。

当時、セントラルパークを挟んで、イースト地区高級住宅街で、ウエスト地区荒れ果てた貧困地区となっていました。

『ウェストサイド物語』の冒頭でも、このマンハッタン島を上空からイースト地区からウェスト地区に向かって撮影した映像が流れます。

ニューヨーク市は、この荒れ果てたウェスト地区を再開発する方針を打ち出しました。

その地区には、貧しい白人プエルトリコ系移民が共に生活していました。

自分たちの育った環境が再開発に伴い失ってしまう貧しい白人の不良少年達、そしてキャデラック、ブランドの洋服、高級住宅街といった夢に憧れて移り住んできた移民労働者達。

そういった背景を舞台として、それぞれが抱えている信念想いがぶつかっていきます。

彼らは、それぞれギャング集団を作り、敵対していくのですが、その抗争の中で一つの恋が生まれます。

それが、トニーマリアです。

2人は一目見た瞬間から激しい恋に落ちてしまうのですが、その2人の恋がきっかけでギャング集団の抗争が加速してしまいます。

それを止めようとトニーは必死で抵抗しますが、抵抗も虚しく“悲劇”が生まれてしまうのです。

『ウェストサイド物語』は、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を翻案した作品です。

モンタギュー家がジェット団、キャピュレット家がシャーク団、ロミオがトニー、ジュリエットがマリアという関係性でしょうか。

このシェイクスピアの作品を1950年代「いま」にフォーカスして映画に落とし込んだため、当時の人々はこの映画に感動し、アカデミー賞にも見事輝いたのではないかと思います。

新しく生まれ変わった『ウェスト・サイド・ストーリー』

さて、今作の『ウェスト・サイド・ストーリー』はどうだったのでしょうか。

実は、今作は現代の2022年を舞台に移してリメイクしているわけではありません。

舞台設定は1950年代当時のままにしてあります。

なぜ監督は当時の舞台設定のまま映画作製をしたのでしょうか。

それは、ジェントリフィケーション(都市の富裕化現象のこと)に伴う低所得者や高齢者の立退き、そして人種差別など、この舞台の時代背景や問題で取り扱っている「分断」というテーマが、現代にも通ずるものがあったからだと思います。

人と人、人種と国籍、生まれと育ち、国民と国家。

何故こうも「分断」は生まれるのだろうか。

それはきっと、それぞれに信念があるからだと思います。

私は、堀潤監督『わたしは分断を許さない』という映画のテーマと近いものを感じました。

もちろん映画のダンスシーンや恋模様を現代の人にも楽しんでもらいたい気持ちもあるでしょう。

その中で生まれる友情愛情憎しみ嫉妬などの人間の感情も今作では見事に表現されています。

トニー役を演じたアンセル・エルゴートのマリアが亡くなったと聞いた瞬間に取り乱す演技は、こちらも感情移入してしまうほど、素晴らしい演技でした。

しかし、そんな役者の演技やストーリー構成だけでなく、映画の中に隠された問題に対して真摯に向き合ってほしいという願いが込められているようにも感じました。

齢90歳のリタ・モレノの活躍

1961年の『ウェストサイド物語』でアカデミー賞の助演女優賞を受賞したリタ・モレノが今作でも出演しています。

当時はアニタ役で出ていましたが、今作ではまったく新しい役柄のポストに抜擢されています。

トニーを見守る相談役として出演していますが、90歳とは思えないその演技力表現力に圧倒されました。

最後にチコが警察に出頭するシーンでは、彼女はチコが使った銃を右手に持ち、もう一方の手でチコの後ろに手を伸ばし一緒に警察の前まで出頭します。

そのなんともいえぬ哀愁のある演出に私は感動しました。

今作では、アニタ役をアリアナ・デボーズが見事に演じきりましたが、そんな60年前に演じた役柄をリタ・モレノはどういった気持ちで見ていたのでしょうか。

考えただけで、胸が熱くなりますね。

まとめ

スティーヴン・スピルバーグ監督の『ウェスト・サイド・ストーリー』は、『ウェストサイド物語』のリメイク版として発表されました。

しかし、“リメイク版として現代に甦った作品”という位置付けで観てはいけないのではないかと私は思います。

今作は、“新しい作品”として生まれ変わった、現代にも通ずるミュージカル映画のような気がします。

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