妄想プロポーズ

結婚式のこと

都内某所。

ここは東京の夜景が一望できる高層階のレストラン。

レストランの中では、優雅なクラシックがバイオリンとピアノのデュオによって奏でられている。

2人のカップルがお酒を嗜みながら今日という1日を振り返り、楽しく談笑している。

オレンジ色に灯された間接照明とテーブルの上に置かれたキャンドルライトだけが空間の唯一の明かりだ。

お互いの表情が読みづらいため、お互いの距離が自然と近くなっていく。

彼の様子がおかしい。

いつもなら彼女が側にいれば自然体でいられるのに、今日に限っては何故か緊張してしいる。

これからやろうとしている演出のせいだろうか。

彼女の方を見ると、彼女は笑顔で溢れていて、彼の側で食事ができる喜びを噛み締めているようだ。

彼女は知らない。

彼女の笑顔は、周りの人を笑顔にさせ、倖せにさせることを。

彼は、その彼女の特別な能力を“笑顔のお裾分け”と言っている。

と、そこにウェイターがやってきた。

ウェイターは空になったグラスを見て「何かお飲みになりますか?」と聞いてきた。

彼は「同じシャンパンをそれぞれ一杯ずつお願いします。」とウェイターに言った。

「承知致しました。」とウェイターは軽く会釈をして下がっていく。

2人は再び談笑に花を咲かせ始めるが、しばらくして、ウェイターがシャンパンを持ってきた。

シャンパングラスに注がれた黄金色に輝くシャンパンが2つ。

その1つの彼女の前に置かれたシャンパングラスの底に、キラキラと光り輝く何かが入っている。

時が止まったかのようなゆっくりとした時間の中で、女性はそのグラスの底にあるキラキラしたものが何なのかじっと眺めていた。

次の瞬間、彼女は思わず片手で自分の口を押さえる。

先ほどまでの笑顔は突然なくなり、戸惑いの表情に変わる。

次第に目に涙を浮かべ、彼女は突然のことで驚きを隠せない様子だ。

シャンパングラスの底に入っていたものは、婚約指輪だった。

彼は、ここのレストランの支配人と事前に打ち合わせをして今回の演出をお願いしたのだ。

彼は、そのシャンパングラスを持ち、女性の前で片膝をついて次のように言った。

「僕と結婚してほしい。」

「僕の人生は僕が決める。」

「そして僕の人生は君にしか捧げない。」

「君に人生の全てを捧げるよ。」

彼女は、首を縦に振り「喜んで」と答えた。

彼はシャンパンから指輪を取り出し、彼女の薬指にそっとはめた。

女性の指に指輪をはめるのは彼にとっては初めてのことだった。

指の関節で指輪がスムーズに入らなくて焦ったりしたが、そんなぎこちない瞬間は、生涯良い思い出となるのだろう。

これが私の妄想プロポーズだ。

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